特集インタビュー&コラム|#サッカーが待ちきれない「【マイベストゲーム5選 #1】Jを愛する平畠啓史が選んだのは!? 1999年の激闘、J3の知られざる名シーンも」

特集インタビュー~サッカーが待ちきれない人たち~
インタビュー&コラム -サッカーが待ちきれない人たちへ-2020/05/21
【マイベストゲーム5選 #1】Jを愛する平畠啓史が選んだのは!? 1999年の激闘、J3の知られざる名シーンも

“サッカーが待ちきれない”人たちに自身の記憶に強く刻まれている忘れられない試合や、サッカー愛に溢れる方々にその思いを語っていただく特別インタビュー企画。実況、解説、関係者が選ぶ「マイベストゲーム5選」の第1回にはスカパー!サッカーとも縁が深い平畠啓史さんをお迎えします。Jリーグを愛してやまない彼が厳選した5試合とは?(取材・構成:飯尾篤史)


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【5位】2007年3月18日 J2第3節 モンテディオ山形 1-1 京都サンガF.C.


最初に紹介したいのは、このゲームです。まだシーズンの序盤ですし、スコアも1-1で劇的な内容だったわけでもありません。それでも思い入れがあるのは、僕にとって“はじめの一歩”だったからです。


2007年シーズンから「スカパー!」でアフターゲームショーの司会を務めさせてもらうのですが、オファーを頂いたとき、「本気でやろう」と思って、すべてのスタジアムに行こうと決めたんです。それで、最初に足を運んだのがこの試合でした。


なぜ、この試合を選んだのかは覚えていません(笑)。単純に、山形のスタジアムに行ったことがなかったからかもしれないですけど、たぶん大した理由はなくて、思いつきです(笑)。


試合内容も印象に残っているわけではありません。覚えているのは、とにかく寒かったことと、その当時ラジオ番組を一緒にやっていた女性タレントのポスターが山形駅前のパチンコ店に飾ってあって「イメージガールをやってたんや!」と思ったこと。あと、あまりにも寒いので帰りに駅でうどんを食べたことなど、どうでもいいことばかり(笑)。


ただ、山形のクラブスタッフの方がすごく親切にしてくれて、雪が積もったときに使用するオレンジ色のボールを見せてくれたり、「大卒の佐藤健太郎という選手がいいんですよ」と教えてくれたり。このとき、親切にしていただいたことで、もっといろんなスタジアムに行きたいと思ったんです。そして、2018年にはスタジアム行脚で見たこと、感じたことをまとめた本を出すこともできた。すべては、この試合のおかげやなと。


それまでの僕は、どちらかというとシステム論や戦術論に興味があって、偏った見方をしていました。でも、J1だけでなく、J2、J3のスタジアムを巡るようになって、サッカーの見方や楽しみ方が変わった。幅ができたというんですかね。その原点となった試合でもあります。



【4位】2018年12月1日 J1第34節 名古屋グランパス 2-2 湘南ベルマーレ


J1残留を争っていた両チームによる直接対決で、引き分けに終わったことで両チームとも残留することができた。試合が終わって、両チームのサポーターが大喜びすることって、まずないじゃないですか。リーグ戦ならではの光景というんですか。それが、すごく印象に残っています。


18年ロシアW杯のグループステージ第3戦のポーランド戦で、日本が負けているのに、ボールを回して時間稼ぎをしましたよね。西野朗監督がそういう采配をした。そのとき、僕はなんとも思わなかったんですよ。グループステージを突破するために、それが最善の策なら、それでいいじゃないかって。


でも、日本では物議を醸したというか。「正々堂々と戦えよ」みたいな話があったと思うんですけど、おそらくヨーロッパのチームが同じことをしても、そこまで批判されないと思うんです。なぜなら、ヨーロッパの人たちはリーグ戦で同じような経験をたくさんしているから。勝ち点1差で降格したり、引き分けたことでともに残留したり、負けたのに残留したり、勝ったのに降格したり、という経験をたくさんしている。


だから、僕はこの試合を見たとき、もっとたくさんの人に見てほしいなと思ったんです。もちろん、裏カードでジュビロ磐田が川崎フロンターレに終了間際に決勝ゴールを決められたことによって、湘南と名古屋の両方の残留が決まるわけですけど、引き分けでも両者が幸せになる、ということが実際にサッカーの世界では起きる。勝利がすべてではない。
この試合を見た名古屋サポーターや湘南サポーターは、似たような状況がW杯で訪れたとき、「引き分け狙いもありやな」という考え方で、サッカーを見るようになると思うんです。リーグ戦でこういう試合をたくさん経験することで、サッカーの勝敗に対するナイーブさみたいなものもなくなっていくんじゃないかと。


あと、ジョーが涙ぐむ姿にもグッと来るものがありましたね。元ブラジル代表選手でもこんなに喜ぶんやって。ジョーは得点王になったから、チームが降格しようが、彼自身は仕事を全うしたわけです。だから、もっとドライな感じかなと勝手に思っていたんですけど、ギリギリのところでチームのために戦っていたんやなって。感動すると同時に、嬉しかったですね。



【3位】2017年12月3日 J3第34節 アスルクラロ沼津 1-1 栃木SC


この試合はJ3の最終節なんですけど、実況の仕事で現地に行っていました。沼津駅前のホテルに泊まったんですけど、栃木サポーターが大挙して訪れて、朝から沼津の駅が黄色に染まった。それにまずびっくりしたというか。栃木サポーターの、この試合に懸ける思いがすごく伝わってきたんですね。


さらに、タクシー乗り場で松本育夫さん(元栃木取締役)にもお会いして、スタジアムに行く前から「今日は特別な日なんやなあ」と感じられたんです。


沼津はJ3で、静岡の中では清水や磐田と比べて、プロサッカーがそこまで定着していないかもしれません。それでも、こういう体験ができるのが凄いなって。


このとき、首位が栃木、2位が沼津、3位がブラウブリッツ秋田だったんですけど、結果的にこの試合が引き分けに終わり、秋田がガイナーレ鳥取を下したことで、秋田が逆転優勝し、栃木が2位でJ2復帰となったんです。秋田が優勝するには、自分たちが勝って、沼津と栃木が引き分けるしか可能性がなかった。ひとつしかないシチュエーションが見事にハマるというか。目の前の勝つ、負けるだけじゃなく、よそのスタジアムの経過も関係してくるリーグ戦の面白さを味わいました。


目の前では2位ながらJ2復帰を決めた栃木サポーターがすごく喜んでいるんですけど、沼津にとってはこれがホーム最終戦なので、吉田謙監督(現秋田監督)が挨拶をしました。それが感動的で。


吉田監督はまず、「昇格おめでとうございます」と栃木サポーターに声を掛けたんです。実はこのとき、沼津はまだJ2ライセンスを持っていないんです。つまり、この試合に勝って優勝しても昇格できなかった。でも、いつか必ず、J2、J1に上がっていくぞ、という意気込みを語り出すんです。すると、最初は自分たちの昇格に沸いてザワザワしていた栃木サポーターが次第に聞き入るようになり、話が終わったときにはスタジアム全体から拍手が起こったんです。


朝の沼津駅前の光景から試合後の挨拶までドラマがずっと続いていて、すごく感動的な試合でした。



【2位】2014年11月30日 J1昇格プレーオフ準決勝 ジュビロ磐田 1-2 モンテディオ山形


後半のアディショナルタイムに山形のGK山岸範宏さんのヘディングシュートが決まるんですけど、これもヤマハスタジアムで見ていました。奇跡の瞬間に立ち会えたことを幸せに思うと同時に、人間は本当に奇跡の瞬間を目にすると、喋れなくなるんだということを、身を持って経験しました。


ゴールが決まった直後、知り合いの記者の人たちと目が合ったんですけど、誰も声を発しないんです。ドラマでそんなシーンを見たことがありますけど、ホンマにそうなるんやなって。言葉が出ないんです。時が止まる感じ。


僕は山岸さんが浦和レッズ時代から親しくさせてもらって、ミックスゾーンで話をさせていただいていたんです。でも、この日は当然、大勢の記者に囲まれていて、話しかける隙がない。そんな様子を見て、なんだか遠い存在になってしまったなあって。僕が勝手に感じただけですが(笑)


あと、この日は一緒に仕事をしているサッカー番組のスタッフの車に乗せてもらって磐田まで来ていたんですけど、帰りの3、4時間、ずっとこのゴールについて語り合っていた。


普通、別の話題になったりするじゃないですか。そのスタッフとはよく、果物で一番好きなのは何か、っていう話になるんですけど(苦笑)、この日はずっと、このゴールの話ばかりしていた。サッカーの試合だけでなく映画もそうですけど、見終わったあと、たくさん喋れれば喋れるほど、その試合や映画に価値があると僕は思うんです。そういう意味では、ものすごく価値のあるゴールだったと思います。



【1位】1999年12月11日 チャンピオンシップ第2戦 清水エスパルス 2-1 ジュビロ磐田(2PK4)


僕はJリーグのベストゲームを聞かれたら、この試合を挙げることが多いんです。まず、その年のチャンピオンを決める一戦が、静岡ダービーになるなんて、最高のシチュエーションじゃないですか。静岡の人たちは誇らしかったと思うし、幸せやったやろうなって。


それに両チームとも、錚々たるメンバーでしたし、試合展開もドラマチック。磐田が2-1で勝利した第1戦のヤマハスタジアムの雰囲気も良かったですけど、第2戦の日本平のピリピリした空気感も鳥肌が立つというか。あの試合をスタジアムで見た人って、一生語れる貴重な経験をしたと思います。


試合展開に関しては、磐田が先制した直後にアレックスが退場になって、清水が絶体絶命のピンチに陥るんですけど、ノボリさん(澤登正朗)がFKを決める。盛り上がらないわけがないですよね。


プロの選手って、究極的に言えば、ああいうシチュエーションで決めるために練習している、みたいなところもあると思うんです。そこで決めてしまう澤登さんの凄さ。


延長に入ってファビーニョが決めて、最後はPK戦の末に磐田がチャンピオンになるわけですが、なんか100%で喜んでないんですよね。納得がいってない感じ。それも僕はすごく好き。年間では、清水のほうが勝点は多かったんです。でも、だからこそ、磐田はその後、どんどん強くなっていった。そういう見方もできますよね。とにかくすごいゲームでした。



●希望を持てるだけでも幸せ


今はコロナ禍で大変な状況ですけど、僕はあまり「大変、大変」って言いたくなくて。逆に、サッカーのある日常のありがたみを知ることもできたし、サッカーのある日常が戻ってきたとき、思い切り喜べたらいいかなって。


その希望を持てるだけでも幸せかな、と思います。だから、「こうやって過ごしましょう」なんて言うつもりはまったくなくて、再びサッカーのある日常を思い切り楽しむためにも、一緒に頑張って乗り越えていきましょう。


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☆2020年5月23日に平畠さんの新書籍が発売されます。こちらもぜひチェックしてみてください!


『平畠啓史Jリーグ56クラブ巡礼2020 -日本全国56人に会ってきた-』 (ヨシモトブックス)
定価本体1,500円+税


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【実況・解説・関係者のマイベストゲーム5選】
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